安 ほのみ×ツカノマ
(×シリーズ第12回)

漏れるため息を吐きつくしたとき、ほんとうの貴女がそこにいる。

×(カケル)シリーズ第十二弾
安 ほのみ

2020/11/4
筆者:佐藤
文字数:1930 写真:7枚

 

 

自分らしさを消費して、この街は息をする。

背負ったひとびとの夢をつまみ食いしながら、この世界は舞い踊る。

入れ替わり立ち代わりに次の動力源がやってきて、夢想い手を伸ばし日々を過ごす。

そうやって生活する人々の残像で、この都市はできている。

 

莫迦みたいに晴れ渡ったソラい蒼が、目に刺さって痛いほどに、

ここ最近、鮮やかな色を見ていないような気がして。

…嘘。ブルーライトなるものは日々目にしていた。

ブルーというのだから、きっとあれは鮮やかなのだろう。

 

彩りに欠ける景色をこばかにするような青が、頭の上から笑っている。

まだ日光に慣れぬ乾いた瞳をしぱしぱさせながら、見慣れた遊歩道をふらつく。

寒暖の差が、日々歩む足取りを重くさせる。

そういえば、秋の訪れなんて気づかないまま通り過ぎていった。

日本人の詫び寂びとは、季節の移ろいを愉し哀しむものではなかったのか。

ぐろーばる社会の海霧に霞んで、日の丸がボヤついている。

国会議事堂に掛けられた、あんな真っ赤なものではないけれど。

そんなことを思い始めた束の間、

 

一息。

 

 

同卒だったブリキ仕掛けはガソリンを吐きつくしたようで、電車で生まれ故郷へと引き取られていった。

見送るときのぞかせた笑顔は、油が切れていたようでどこかぎこちない。

この道を真っすぐ進めば、果ては有るのだろうか。

そう思い立って自転車をただただ道沿いに漕ぎ進めたあの想い。

同じ気持ちで、スタンドに立ち寄ることなく走らせれば、いずれ。

どうやら感傷は燃料にならない、らしい。

 

おいしいものを食べなきゃいけないでしょうに。

お茶を挟まなきゃ、のどが渇くでしょうに。

たまには散財しなきゃやってられないでしょうに。

日々の活力とは、そうやって養っていくものでしょう?

二息。

 

 

そろそろ潮時だろうか。

潮時の意味も知らないままに、そんな言葉がよく使われていたな、と思い出す。

潮が引いたら、もう満ちないのだろうか、なんて。

日を改めて、って意味じゃないの?なんて。

 

区画整理された港のきっちりとした景色の中、不釣り合いに見える古びたフェリーと汽笛。

そのぼわんと反響する、間抜けた音がなんだかおもしろく感じた。

波の音はあまり聞こえず、上書き保存された心地いい低排気音だけの世界。

しばらく耳を澄ませていると、その残響にだれかの吐息が混じる。

 

三息、換気。

 

自分らしさ、とは何だろう?

具体的には答えられないけれど、自分らしくなさ、なら説明できる。

すすけた灰色が、溜まりに賜った状態、またはその有様。

自分らしさを消費して、この街は息をする。

この街自体は、灰色でも何でもないのにな。

 

換気というより、換彩がより正しい書き方。

何と読めばいいのだろう。かんさい、あるいはかんしき、かんしょく。

おなかに溜まった灰色を傾け、彩りに満ちた世界に垂れ流して混ぜ合わせ、

そうして一旦かさを減らして、自分らしいと思える色を手ですくって満たしていく。

完全なその色にはならないけれど、ひとまず自分らしさ、っぽくはなる。

 

 

今日は戻る道すがら、立ち寄った公園のマーガレット。

それとオレンジがかったスイトピーにマゼンタ気味のルナリア。

 

この街は、美しい。

灰色を混ぜ込んた景色だからこそ、美しいんだろう。

きっと、誰かの灰色をつまみ食いしたこの景色は、鮮やかで美しい。

矛盾に思えるけれど、私の渇いた瞳には色とりどりの可憐な花々が写っている。

 

 

四息、溜息。

少しだけ、職場に戻るのを遅らせようと思った。

もうちょっとだけ、色の入れ替えをしないといけない。

束の間、ちょっとした時間と時間のすきま、公園の脇の素朴なベンチに腰掛け、ふと息を吐く。

リフレッシュ、新しくなるわけではない。ただ状態を元に戻すだけ。

はげかかった塗装が手に刺さり、そっと指をさする。

そう、潮の満ち引きの様に。

潮時は、また周期的に現れるのだから、月の満ち欠けで波打ち際は遠ざかってしまうのだから。

夢をつまみ食いされている代わりに、この世界は延々と廻り続けるのだから。

常緑樹の深緑は、ドライアイには優しくあたたかい。

 

灰色に塗れる時間がまた始まる。だが、別にそこに否定的な感情がある訳ではない。

束の間を愛せるていどに、まみれて、また取り入れて、そうしてこの街で過ごしていく。

自分らしい、というか。

美しいと思えたこの街に、この世界に少しでも近づいてゆく。

それだけでも、らしくなれると思うから。

 

 

束の間が終わる。

そろそろ潮時だろうか。

でもいいのだ。また日を改めるだけなのだから。

 

潮が満ちて、月が欠けて。引いて、月が満ちて、満ちて。

そうやって、灰色を垂らした美しい世界が、今日も廻っている。

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