口づけはグラスと貴方に
紀伊 美玲

筆者：中居
文字数　1107　写真　10 枚

夜の帳が降りると、今日も彼女は一日の疲れを癒すために、ふらりとバーへと足を運ぶ。
シンプルで落ち着いた雰囲気のカウンターに腰を下ろし、いつものシャンパンを頼むのが彼女の日課だ。

彼女の名前は美玲。
一人の時間を大切にする独身女性で、仕事に対しては情熱的でありつつも、時折訪れる人肌恋しい夜に、密かに誰かとの出会いを夢見ている。

「一人で飲むお酒も悪くないかも。」彼女はシャンパンを一口含み、琥珀色の液体が喉を流れる感覚を楽しんだ。
仕事帰りのこのひとときが、彼女にとっての癒しであり、日常の喧騒から解放される瞬間だ。
しかし、心のどこかで誰かとの会話、そして誰かと飲むお酒の楽しさを求めている自分にも気づいている。

仕事では完璧主義で、何事にも全力を尽くす。
それが彼女の強みであり、周囲からも信頼されている。
しかし、その反面、プライベートでは少しだけ寂しさを感じることがある。

一人でいる時間を楽しむ一方で、
ふとした瞬間に「誰かと一緒にいたら、もっと楽しいのかもしれない」と思うことがあるのだ。
特に、ふらりと立ち寄るバーで、知らない人との出会いを密かに心待ちにしている自分を感じる時、美玲はその思いに戸惑う。

「今日はどんな人に出会えるかしら？」そう思いながら、彼女は周囲をちらりと見渡す。
けれど、いつもと変わらない静かな夜。
店内には数人の常連客がいるだけで、特に新しい出会いの予感はない。
それでも彼女は焦らない。
どんな出会いもタイミングが大切だと分かっているから。

自分磨きにも余念がない。
仕事をしながらも、休日にはエステやジムに通い、美容にも気を遣う。
お洒落をするのも大好きだし、ファッションやメイクにこだわる時間も楽しい。
しかし、本当のところ、彼女が綺麗でいたいと思うのは、ただ自分のためだけではない。
いつか現れる「その人」に会う日まで、自分を磨き続けていたいという思いが、彼女の中に根付いている。

「きっといつか、素敵な出会いがあるはず。」そう信じている彼女だが、その時がいつ来るのかはわからない。
でも、だからこそ日々の小さな期待が、彼女の生活に彩りを添えてくれる。

一人で飲むお酒も、もちろん大好きだ。
でも、誰かと一緒に飲むお酒はもっと好き。
そんな願いを抱きながら、今日も彼女は静かな夜のカウンターで、次の一杯を楽しんでいる。

それは、いつもと変わらない夜かもしれないし、もしかしたら特別な夜になるかもしれない。
彼女にとって、明日の自分を楽しみにしながら過ごすこの時間が、何よりも大切なのだ。

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