秋の終わりの午後に 【八代 涼楓】

秋の終わりの午後に 【八代 涼楓】

2025.11.1

こんいちは、八代 涼楓です。
「急に寒くなったね」
そう言いながら、常連のお客様がコートを脱がれた。
外は小雨。湿った空気のなか、ほのかにわき立つ彼の香水の香り。
私は静かに心躍らせる。

秋の終わりって、なんだか物悲しいですよね」
そうお話しすると、彼は少し笑って「でも、キミには似合う季節だ」とおっしゃった。
不意にそんなことを言われると、どう返せばいいのかわからなくなる。
褒められてるのかしら?それとも…。
意図を図りかねていたら、よほど変な顔をしていたのでしょう。
お客様は笑って、「そんな困った顔しないでよ。どちらも素敵ってことだよ」と言ってくださいました。

このお店にいると、いろんな人の優しさに触れることが多いです。
お客様はもちろん、お店の方や、他の女の子たち。
それぞれが、それぞれの事情を抱えながら、誰かを思いやる。
その姿に、いつも小さなしあわせをもらっています。

お客様とお別れしたあと、外に出てみると、雨上がりの石畳がほんのり光っていて、空気が透き通っていました。
肌に触れる風が冷たいのに、なぜか心は温かくて。
お迎えの車に、いつもより足取り軽く乗り込むのでした。


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